提 言 書
『高齢者労働力の活用に向けて』
(将来を見据えて今取り組むべき問題)

2001年度社団法人相模原青年会議所
高齢者問題協議委員会
地域像
◎
地域社会でのノーマライゼーションを実現しよう
高齢者が元気に働くことが出来ると言うことは、働くことで
得られる収入により安定した生活をおくることが可能となり、
また、働くこと自体に生きがいを得て充実した生活をおくる
ことが出来ると言うことです。私たちは、高齢者がいきいき
と働き、そしてのびのびと暮らすと言うことが普通のことで
あるという地域社会を実現していきましょう。
ノーマライゼーション・・全ての人が人間として普通の生活を送るため、共に暮らし、共に生きる
という考え
◎
地域社会でのエンパワーメントを実現しよう
高齢者は、その能力や希望に応じて様々な形での地域社会参
加を求めていることでしょう。そして、その能力や希望に応
じ地域社会参加が可能であると言うことは、いきいきとした
地域社会への第一歩です。高齢者がいつまでも地域社会の中
で暮らすことができるよう、お互いが助け合い学びあえる、
そう言う地域社会を実現していきましょう。
減退した能力に応じてそれを補う考え
提 言

提言1 高齢者の積極雇用に向けた協議会を設置すべきである。
将来の本格的な少子高齢社会下における労働力不足に対応するには、貴重な労働力供給源となり得る
高齢者を積極的に雇用し、また知識や経験を有する優秀な高齢者を適所で積極的に活用することが必要
である。これを円滑に推進していくために、地域社会において関係機関の現行職分を超えた協議会を設
置し、協議を開始するべきである。例えば、相模原市、相模原公共職業安定所、相模原市議会、民間経
済団体、社団法人相模原市シルバー人材センター、社会保険労務士会などの関係機関団体及び市民、有
識者、企業、労働組合などの幅広い分野から人材の輩出を受けて協議会を構成し、幅広い意見を容れて
相模原市の現状にマッチした方向性を示すことが望ましい。

提言2 新たな職業紹介システムを創設すべきである。
高齢者の生きがい確保目的労働と所得確保目的労働との双方の要望に対応しつつ、地域社会の高齢者
労働力の需要に効率的に応じるため、運用面において社団法人相模原市シルバー人材センターの活動を
高齢者の生きがい確保目的労働への対応に特化させ、所得確保を目的とする高齢者(高年齢者を含む)
に対応する新たな無料職業紹介所機関を地域社会に設置し、職業安定所などの関係機関との連携を強化
して高齢者労働力の需要と供給のマッチングをはかるなどの整備を行うべきである。例えば、大手企業
では各企業で独自のシルバー人材派遣会社を設立しているが、これに類するシルバー人材派遣機関を各
種業界団体において設置することが望ましい。

提言3 行政主導によるソフト面の緊急整備を進めるべきである。
急激な少子高齢化に対応するため、地域社会における効率的・効果的な雇用推進に向けた方策を行政
主導で検討・提案するべきである。例えば、高齢者雇用に関する労働者と企業者それぞれの意識改革に
向けた方策の検討・提案及び少子高齢社会に備えて雇用延長・再雇用制度などの雇用制度改革に関する
アクションプランを示すなどして、ハード面の整備に先だって、ソフト面の整備を緊急に推進するべき
である。

提言4 JCは自らが先駆者の自負をもって実践すべきである。
私たち(社)相模原青年会議所は、異業種青年経済人の集合体である自負をもって、自己の企業団体
における当該分野での先進的取り組みを主導し、来るべき少子高齢社会における高齢者労働力の活用の
在り方についての調査・研究・実践を行い、活力ある地域社会の確立に向けた努力を今から進めていく
べきである。

調査研究報告
私たち(社)相模原青年会議所は、『明るい豊かな社会実現』のため、『経済、社会、文化及び政治に関する諸問題を研究し、もってその改善及び発展のために寄与すること』などを行うことを目的として活動しています。
2001年度、(社)相模原青年会議所では、『まちづくり』『青年』『少年育成』そして『高齢者』に関する諸問題を取り上げ、調査研究を進めて参りました。この提言書は、上記のうち、『高齢者』について高齢者問題協議委員会で調査研究した成果物です。
さて、相模原市が実施している市民意識調査によれば、最も多くの市民が相模原市に求めている『まちづくりに関する優先施策』は、『高齢者対策』です。私たちは、この市民が求める『高齢者対策』とは、すなわちは『福祉』の充実であると捉えています。
ところで、この『福祉』に関しては、まさに大変革と言える介護保険制度が2000年4月1日よりスタートしました。この制度のポイントは、『福祉』を措置制度から契約制度に移行させたことです。いわゆる自己責任、自己負担社会への転化です。この介護保険制度のもとで充実した『福祉』を実現させるためには、どうしても高齢者の安定した生活基盤、すなわち、家計の安定充実が必要です。
しかしながら、現在、経済不況、失業率の増加、リストラを含めた早期退職の勧奨、年功序列型賃金体系の崩壊、年金制度の信頼性の低下や年金支給開始年齢の引き上げなど、明るい要因を見いだすことは困難です。
これにより、高齢者となる前に十分な貯蓄ができない、そして高齢者となった後も十分な年金が支給されない、一方、高齢者の増加による老人保健制度の財政悪化により自己負担率が増加するなどの事態が考えられ、高齢者の生活基盤確立は今後ますます困難になっていくことが推測できるのです。
私たち(社)相模原青年会議所は、以上のとおり、安定そして充実した高齢者の生活を実現するには、近い将来、高齢者福祉・高齢者医療施策の充実のみならず、これらの諸制度を利用し得る、高齢者を含む高年齢者の経済的安定と所得確保がますます重要になると考えています。
少子高齢社会において、高齢者の生きがいや健康増進目的及び所得確保目的に働きたいという労働力供給側と企業者の若年労働力減少による高齢者労働力を確保したいという労働力需要側とをいかにうまくマッチングできるかは非常に重要な問題です。
青年経済人を中心とした団体である、私たち(社)相模原青年会議所は、将来に向けた取り組みのために、一市民の視点で調査し、その結果をまとめたのがこの提言書です。
私たち(社)相模原青年会議所は、市民の平均年齢が30代である相模原市において、是非とも、早急に将来に向けた取り組みを開始して、来るべき少子高齢社会に備え、活力ある地域社会でありつづけることを希望しています。
2001年度(社)相模原青年会議所
まちづくり室
高齢者問題協議委員会
第1章 現代の高齢者問題
第1節 はじめに
現在、日本は高齢社会から超高齢社会へと移行しつつあります。諸外国に比しての急激な高齢化推計が高齢者問題をクローズアップさせていることは周知のところです。
これに加えて、日本の総人口は近い将来減少傾向に転じ、いわゆる少子化も進行していきます。
この高齢者人口の急激な増加と少子化による総人口の減少見込みによる総人口に占める高齢者人口の割合の急激な増加が、高齢者に関する問題と不安の発端であると考えられます。
加えて、昨今の経済情勢の悪化がこれを助長させています。株価の低迷、失業率の上昇、不良債権処理の遅れ、国家財政の悪化、大企業倒産の増加、高齢者医療や年金制度の改革など、将来への明るい見通しがありません。
このような状況下で迎える少子高齢社会では、高齢者となった後の不安を解消するため、ただ高齢者福祉の充実を声高に求めるだけではなく、むしろ、よりいっそう高齢者の自立自活を社会全体で支援・実現することを目指す姿勢が重要であると考えます。
この調査研究報告書では、地域社会における高齢者の自立自活、主に経済的自立を確保することにより、いきいきとしたシルバーライフの実現が出来るのではないかということを検討して参ります。
第2節 高齢化に関する統計
第1 日本の統計
先ず、統計をもとに日本の人口について概観してみます。
2000年(平成12年)9月15日、敬老の日にちなんで取りまとめられた総務庁の統計によれば、同日現在、日本の65歳以上の人口は、推計2190万人で総人口の17・3%を占め、人口・割合ともに過去最高でした。
そして、総務庁の推計によれば、将来の高齢者人口の推計によれば、総人口に占める高齢者人口の割合は、次のとおり予想されています。

2005年 19・6% 2010年 22・0% 2015年 25・2%
2020年 26・9% 2025年 27・4%
また、2001年(平成13年)9月15日、敬老の日にちなんでとりまとめられた総務省の統計によれば、同日現在、日本の65歳以上の人口は、推計2272万人で、総人口の17・9%を占め、2000年より人口にして82万人の増加となり、その割合は0・6%上昇して、2000年に引き続き過去最高となりました。
この統計による65歳以上の高齢者人口の男女別数値は、男性は951万人(男性の総人口の15・3%)、女性は1321万人(女性の総人口の20・3%)で,女性が男性より370万人多くなっており、女性の65歳以上の人口は、初めて20%を上回りました。
なお、日本の高齢化の速度について見てみますと、65歳以上人口の割合が7%から倍の14%に達した所要年数(倍化年数)での比較によれば、スウェーデンでは85年,イギリスでは47年,フランスでは115年を要しているのに対し、日本の場合は1970年(昭和45年)は7・1%でしたが、1994年(平成6年)には、既に14・1%に達してしまったため、この所要年数はわずか24年であり、国際的に見ても極めて急速な高齢化が進んでおります。
このように、高齢者の人口や高齢者人口割合が着実に、そして急速に増加している一方で、日本の総人口は減少する傾向にあります。平成9年1月の国立社会保障・人口問題研究所による推計によれば、日本の総人口は、2007年(平成19年)以降減少に転じ、1995年(平成7年)現在の人口1億2560万人に対し、2050年には総人口1億人、2100年には6700万人と見込んでいます。
このように、日本においては、今後いっそうの少子高齢化が窺われる統計となっているのです。
第2 相模原市の統計
次に、私たちの相模原市について、同様の数値を概観してみます。
相模原市の統計によれば、2000年(平成12年)1月1日現在での相模原市内の65歳以上の人口は、総人口の10・6%です。
これは、同日現在の日本全国の16・7%、神奈川県の12・7%より低い値を示しています。
また、将来の相模原市内における65歳以上の人口推移の予想は、次のとおりであり、おおよそ日本全国より低い数値で推移すると予想されています。

2001年 11・3% 2002年 12・0% 2003年 12・5%
2004年 13・0% 2010年 17・2%
しかしながら、相模原市の高齢化率が日本全国や神奈川県よりも少ない数値を示しているとしても、今後、相模原市の総人口に占める高齢者の割合が着実に増加していくことが見込まれています。都心のベッドタウンである相模原市は、将来的にも人口増加が見込まれ、また、市民の平均年齢も若いことや相模原市の市民意識調査の結果による定住意識の高さを考えあわせると、今後、相模原市の高齢者人口の絶対数は、飛躍的に増加するということが危惧されます。
実際、相模原市の推計によれば、平成17年頃からの10年間は、新たに高齢者世代に達する市民の数が、それまでの毎年5000人程度から毎年1万人程度へと急激に増加することを見込んでいるのです。
第3 相模原市における要介護高齢者の割合
ところで、年齢65年以上に達した人をひとくくりに高齢者と呼称しているため、実際に高齢者といっても、他者の支援を要する人から自立して社会の第一線で活躍している人まで幅広くいると考えられるのです。
高齢者世代になったとしても、元気にそして安心して生活できるよう健康でいるということは、地域社会にとっても、そして何より自分にとっても重要であると言うことは、社会全体の不況と自己責任・自己負担社会において、ますます重要になっていくことは明らかです。
そこで、相模原市における介護等を要する高齢者の状況について、相模原市が平成10年度に実施した「相模原市高齢者保健福祉計画の実態調査」で概観してみることにします。

平成12年度から平成16年度までの推計
ねたきり高齢者 対高齢者人口比 3・4%
痴呆性高齢者 対高齢者人口比 3・2%
ねたきり且つ痴呆性高齢者 対高齢者人口比 1・4%
合計 対高齢者人口比 5・2%
(各年度ごとの推計ですが、平成12年度から平成16年度まで各年度同比率)
平成12年度から平成16年度まで、高齢者総人口に占める「ねたきり高齢者」、「痴呆性高齢者」、「ねたきり且つ痴呆性高齢者」の人口比には変化がない推計となっていますが、先に指摘のとおり、高齢者人口の絶対数が増加して(毎年5000人程度が高齢者世代となっていく推計です)いることを勘案すれば、上記の相対比率は横這いですが、絶対数は明らかに増加していくということになります。
第3節 高齢者問題とは
第1 高齢化が引き起こす将来の不安材料
先に指摘のとおり、日本は急激な高齢化が進んでいます。世界でも例を見ないほどの急激な高齢化です。また、少子化も顕著なものとなっています。この少子高齢化が高齢者にとってどのような影響を与えるのでしょうか。
先ず、少子化により若年人口が減少することにより、高齢者を社会全体で支えてきたという構造は破綻します。これは、年金の問題、医療の問題、介護福祉の問題などに大きな影響を与えていくことが考えられます。
これらは、高齢者の生活に対して大きな影響をもたらします。
例えば、一つの例として年金制度について触れてみます。年金制度は、法律の改正により年金支給開始年齢が引き上げられることとなりました。段階的に現在の60歳支給開始が65歳支給開始となるのです。男性は1961年4月2日生まれ以降の人が、女性は1966年4月2日生まれの人が65歳からの年金支給と改正されました。これにより、60歳から65歳までのこの5年間の生活についての保障がなくなってしまうのです。
今までの年金制度では、仮に、60歳で定年を迎えた場合、年金が支給開始までの1〜2年間を嘱託社員やその後の失業給付による収入で生活費を賄い、年金支給開始後(現在は61歳位)からは年金を中心に生活することが出来たのですが、年金支給開始が65歳からとなれば、そのような生活設計は困難になります。
この点、労働省(現・厚生労働省)の2000年版労働白書によれば、次のような統計があります。即ち、年金額と就業率との関係です。

●年金額が減少するほど上昇する就業率●
公的年金制度の改正に伴う老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げに伴い、将来的に60歳〜
64歳までの間、公的年金制度からの支給は行われないことになるが、こうした公的年金制度の
改正は高年齢者の就業行動にどのような影響をもたらすのだろうか。
いま、前述の年金受給額と60〜64歳の男性高年齢者の就業確率の関係を用いて、@老齢厚
生年金の定額部分の支給が65歳からとなり60〜64歳の年金受給額が報酬比例部分のみ(概
ね現在の6割程度の水準)になるケース(2013年時点)
A老齢厚生年金の報酬比例部分の支給も65歳からとなり、60〜64歳の年金受給額が0と
なるケース(2025年時点)
のそれぞれについて、60〜64歳男性の就業率(就業者/人口)の変化を試算すると、199
6年の就業率70・0%から、@のケースでは80・4%に、Aのケースでは87・3%にそれ
ぞれ就業率が高まる結果となる。
このように老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げは、60〜64歳の高年齢者の就業の動きを
さらに強めることが見込まれる。こうしたこともにらみつつ、高年齢者の本格的就業のための環
境づくりを早急に進めていく必要がある。(労働省2000年版労働白書より)
このように、年金額の減少にともなって、就業率が格段に高まるということは、高齢者を含む高年齢者の年金依存度の大きさをあらわしており、この年金に対する依存が精神的なものなのか、経済的なものなのかは、これをもって直ちに掴みきれないとは言え、年金制度の改正は高齢者にとって大きな不安材料であることは確かと言えるでしょう。
また、介護保険や老人医療についての自己負担率に関しても、更にいっそう厳しい状況になることも予想しなくてはなりません。
これは、社会を支える若年労働人口が減少し、高齢者人口が増加する相乗効果で社会全体での相互扶助体制が崩壊していくことや国や地方公共団体の財政悪化が深刻な問題となることで、いわゆる『お上に頼る』と言うことがますます非現実的なものとなっていくことに起因し、いっそうの自己責任、自己負担の社会に変化していくことが考えられるからです。
例えば、高齢者医療(老人保健)について言えば、高齢者が増加することにより、高齢者受診者の絶対数が増加するのですから、現行財政が維持されたとしても、受診者の負担が増加することは自明のことです。
この点、厚生労働省がとりまとめた2002年度医療制度改革案をみれば、医療費の自己負担を3割に改めることをはじめ、高齢者医療の対象者を75歳以上に引き上げることや、高齢者医療費の伸び率抑制のための枠組み導入を目指すなどの諸改革を示しています。
加えて、いわゆる『老後』に備えた蓄えや『老後』の収入の確保が益々困難になっていくことが考えられます。
これは、平成不況から脱却できない経済、失業率の増加、リストラなどによる就業場所の喪失、年功序列型賃金体系の崩壊、正社員からパート社員への雇用形態の変化や多様化などによるいっそうの貯蓄の困難化、年金制度の改革、年金基金の破綻、低金利政策による預金利子収入の減少などによるいっそうの離職後の収入確保の困難化と国家や地方公共団体の財政悪化にともなう医療費などの自己負担の増加や税率の上昇など、明るい要因はなかなか見いだせないからです。
更に、将来を担う若年労働者には、いわゆる『フリーター』と称し、その場の生活費だけをアルバイトで稼ぐ者も増えており、相互扶助の観点と自己責任・自己負担の観点から将来の大きな問題になりかねません。
私たちは、これから、社会全体の相互扶助は最早成り立ち得ない状況を前提に、自己責任・自己負担の制度の中で、いわゆる『老後』の生活設計をしていかなくてはならないと考えざるを得なのです。
第2 高齢者問題の本質
ここで、高齢化が引き起こす諸問題に対する政府の見方を労働省(現・厚生労働省)の2000年度労働白書で概観してみます。
先ず、失業率については、今後、10年間に、高齢化のいっそうの進展のもとで、需要側(企業等)の対応が進まないと、年齢間のミスマッチがさらに拡大して構造的失業をいっそう増加させてしまう恐れもあると分析しています。
経済については、高齢化が労働力率の低下をもたらすことを認めつつ、これに対応する生産性上昇を期待して、労働節約促進効果から技術進歩の活発化をもたらすものと考えています。
消費については、『老後の生活のため』、『病気・災害に備えるため』高年齢者が貯蓄を継続し、結果的に消費を抑えている可能性があるが、将来の不安を払拭することにより貯蓄の必要性を軽減することができれば、消費が増加する可能性が高いと分析しています。
しかし、私たちは、この分析には賛同しかねます。
なぜなら、失業率が増加し、高齢化が進み労働力率が低下する一方で、企業に相当な負担を余儀なくする多額な設備投資によってもたらされる労働節約効果を期待しつつ、依然として高齢者が貯蓄を継続するという分析は、ある意味矛盾があるからです。
すなわち、この分析は、労働力の高齢化により低下する労働力率を設備投資などによりこれを補い、労働節約効果もたらしつつ生産性を維持上昇させることにより、引き続き労働者への一定以上の給与の支払いを見込み、よって貯蓄を継続できるということであると考えられるのですが、日本の経済を担う中小零細企業に多額な設備投資による労働節約を求めることは難しく、仮にこれを実践できたとしても、労働節約効果で生まれる収益は労働者への給与として分配することより、設備投資に要した費用に優先的に充当されるでしょう。また、労働節約効果を期待するのであれば、高齢者をむしろ積極的に雇用しつづける必要性が少なくなる可能性があり、もって高齢者労働力を優先的に節約することが考えられ、従って、高齢者が貯蓄を継続するという結論に直ちに帰結するとは考え難いのです。
結局、私たちは、自己責任・自己負担の社会に転化していく中で、自らが肌身で感じる将来の不安を正しい分析と仮定して、将来の設計をしていかなくてはなりません。将来の不安、すなわち経済的自立(生活の確立)への不安です。
高齢者となった後も経済的自立が確立できれば、求める福祉、求める医療、求める生活環境、求める楽しみ等々、いきいきとしたシルバーライフを手にする可能性が高まります。
自己責任・自己負担が進む社会において、多様な高齢者問題を考えるとき、先ず、経済的自立を考えてみることが高齢者問題の本質であると言っても過言ではない時代になったと言えます。
従って、多様な高齢者問題を逐一抽出して検討する前に、高齢者の経済的自立をはかることを先ず検討してみなくてはなりません。
私たちが調査研究する広範な『高齢者に関する問題』を検討するについて、種々の問題を各論と位置づけ、先ずは総論的な問題である高齢者の経済的自立を検討することにします。
よって、私たちは『高齢者の経済的な自立』・・これを高齢者問題の本質的な問題であると定義します。
第3 高齢者の経済的自立の検討
さて、高齢者の生活原資は、貯蓄の取り崩し、年金収入、労働収入、親族の援助、公的扶助などが考えられます。
ここで、先ず、私たちが検討しなくてはならない問題は、労働収入で経済的自立を求めている高齢者が、その希望どおりの労働の機会を得ることができる地域社会を確立することです。
また、客観的に貯蓄や年金により十分生活できる環境にある高齢者でも、働くことに生き甲斐を感じたり、働くことにより健康保持や社会参加をはかり、精神的不安をはじめ、種々の不安を解消することも考えられるため、この点も検討する必要があります。
従って、次章以降で、先ず高齢者の『生きがい確保に向けた労働』について簡単に触れたのちに、高齢者の『経済的自立に向けた労働』についての検討をしていくことにします。
第2章 生きがい確保に向けた労働
第1節 はじめに
私たちは、高齢者がいきいきと社会参加できる地域社会が理想であると考えています。社会参加をする手段としては、もちろん働くことに限られる訳ではありませんが、海外諸国に比して就業意欲が高い日本では、特に男性については働くことを手段として社会参加を欲することが多いと考えられます。
先ず、高齢者がどのような手段によって社会参加をし、そして生きがいを感じるのかについて簡単に検証してみましょう。
ここでは、高齢者の生きがいについての平成11年3月『相模原市高齢者保健福祉計画実態調査』の統計を参考にしてみます。

●高齢者が何に生きがいを感じるか
1)家族との団らん 43・8% 6)仕 事 21・5%
2)旅 行 43・1% 7)レクリエーション 17・4%
3)趣 味 41・6% 8)老人クラブ 11・8%
4)友人や近隣とのつきあい 36・2% 9)自治会・町内会 10・6%
5)教養を身につける 22・2%
このように、高齢者が感じる生きがいとは、決して特殊なものはありません。高齢者でない人達が感じる生きがいと同じであると言っても過言ではありません。
そうであるならば、私たち自身が何に生きがいを感じるのかを考えれば、必然、答えは出てきます。
高齢者は、引退選手ではなく、社会に必要とされる人間であり続けたいということです。総じて社会とのつながり、社会参加を欲しており、それを具現化する過程とその結果に生きがいを感じていると言うことが推測できます。
しかしながら、私たちは、高齢者の社会参加の形態が、少しだけ変化することがあると言うことだけ認識する必要があります。
そのキーワードは『ゆとり』です。
では、この本稿のテーマである労働に焦点をあてて、高齢者の社会参加の在り方について検討してみましょう。
第2節 高齢者の社会参加と労働
第1 第二の現役生活
高齢者が定年を迎えたのち、趣味やボランティア活動など、これまでやりたくても出来なかった活動をして、のんびりと余生を楽しもうというのが一般的に考えられる高齢者像です。
しかしながら、人生80年時代を迎え、定年後に大凡20年もの歳月があることを鑑みると、第二の現役として何らかの仕事に就きたいと考える人が増えてくるでしょう。
高齢者が働くことを考える理由としては、
1) 年金生活だけでは充分な生活を送れないために、主に収入を得ることを目的として収益性の高
い労働を欲しつつ、労働を通じて社会との関わりを持ち自分自身の存在を感じる
2) 労働を通じて、健康維持・増進をはかり、また、自己の能力を社会に還元することにより、社
会から自己を認知され、尚かつ自己の欲求を実現する
などが考えられます。
これらは、労働の在り方としては対照的ではあるものの、高齢者が社会参加の過程と結果により生きがいを感じながらの生活を欲していることを如実に示していると言えるでしょう。いわば、定年後も地域社会に役立つ存在、現役であり続けたいと言うことです。
この地域社会に役立つ存在、現役であり続けたいという気持ちは、高齢者の健康を保持・増進し、生きがいをもった実りのある生活をもたらすだけではなく、地域社会にとっても高齢者がいつまでも健康で自立していると言うことが、相互扶助が難しくなる時代になればなるほど副次的な意味(福祉財政を少しでも軽減するという意味)で有益なことであることは明らかです。
第2 高齢者の就労形態
高齢期になると、資産形成、健康状態、体力などの面で若い時に比べて個人差が大きくなります。このため、働き方も生活を維持するため、健康維持のため、社会参加のため、あるいは自己実現のためなど、その動機もその人がおかれている環境によってさまざまであり、そのことが働き方を決めていくということが言えます。
例えば、子供も自立し、それなりに財産も形成されており、生活するためにそれほど賃金を得る必要性もなく、むしろ規則正しい生活リズムを維持し健康管理のため働くということであれば、あまり賃金の額そのものにこだわる必要もなく、また、就業時間についても、8時間労働でなく、パートタイムで働くことでも十分その意義を満たせます。
反対に、自宅のローンの返済中であったり、子供が在学中で教育費がかかるのであれば、生活を維持するために働くという要素が強くなり、そのために必要な賃金を得ることができる働き方を選択せざるを得なくなります。
また、高齢者であっても、体力に自信があり、相当の重量物の運搬ができる人もいるでしょうし、そうでない人もいます。視力が低下して細かい部品の組み立て作業ができない人がいる反面、多少老眼の症状があってもさほど細かな作業を遂行するのに障害にならない人もいるでしょう。
このように、高齢期における労働は、なぜ働くのかという就労動機や個々人の資産形成の状況、健康状態、体力といったものが、働くスタイルを決めていくといえます。
それでは、このように多様な就労形態があることを踏まえて、高齢者が『ゆとり』をもって『働く』という手法によって社会に参加し、そして生きがいを得るということは、高齢者にとっても地域社会にとっても極めて意義あるものということを理解したうえで、次に、高齢者の就業機会を確保し、生きがいを提供し、活力ある地域社会づくりに寄与することを目的とするシルバー人材センターについて触れてみることにします。
第3節 シルバー人材センターとは
第1 シルバー人材センターの役割
シルバー人材センター及び生きがい事業団は、概ね60歳以上の職業の観点で現役をリタイアした人達が会員となって、地域の日常生活に密着した臨時・短期的な仕事を行うことにより、追加的な収入を得るとともに、就業を通じた社会参加や生きがいの充実を図ることを目的とした自主的な団体です。
企業等から依頼のあった仕事を引き受け、会員に提供し、仕事の内容と就業の実績に応じて配分金を支払うという仕組みで運営されています。
現在、神奈川県内には、18のシルバー人材センターと16の高齢者事業団が設置されており、平成11年度末時点で27,384人の方が会員となって、植木の手入れ、除草、襖や障子貼り、大工仕事、一般事務、施設管理、福祉・家事援助サービス等幅広い分野で活躍しています。
第2 相模原市におけるシルバー人材センターの活動
私たちのまちにもシルバー人材センターは設立されています。社団法人相模原市シルバー人材センターは「働く意欲をもつ高年齢者の希望に応じた臨時的かつ短期的な就業の機会を確保し、及びこれらの者に対して組織的に提供することにより高年齢者の生きがいの充実及び福祉の増進を図り、もって高年齢者の能力を生かした活力ある地域社会づくりに寄与すること」を目的に活動しています。
そして、社団法人相模原市シルバー人材センターは、この低迷した経済状況にもかかわらず、順調に業績を伸ばしており、契約総額で見ると、平成11年度は約7億1千9百万円で前年度比8.4%の増加となっています。契約別にみると、公共機関である相模原市から、当初減少が予想されていたものの、管理業務等の新規業務を受託することで、前年度比5.4%増である約1億8千3百万円を受注しています。
都市整備公社等の準公共団体についても、前年度を1%上回る約1億9千4百万円を受託しております。
ここで特筆すべきは、民間事業所や一般家庭からの契約額の増加です。民間事業所や一般家庭からの受託契約額は、前年度比15.2%(4千4百万円)も増加しているのです。
会員数についても、年々増加傾向にあり、平成11年度末で2,453人と前年度比18.8%(388人)の増加となっています。
高齢化の進行、経済不況による労働市場の低迷により、高齢者雇用の厳しさは年々増しており、このような環境の中で、全国的な動きとしてシルバー人材センターの活動を福祉施策としての意味合いだけでなく、高齢者の雇用施策としての意味合いにおいて積極的に機能することが求められている状況にあります。(社)相模原市シルバー人材センターは、このような動向に意を注ぎながらも、上記に示した「いきがいの助長」という本来的な目的を尊重して活動しています。
しかしながら、(社)相模原市シルバー人材センターの活動実績、例えば、会員数増加などの結果を見ると、本来の目的である「生きがいの助長」から「雇用機会の場」としての役割負担を迫られている状況にあるということも窺え、順調な活動の根底にある一つの課題でもあるでしょう。
第3 シルバー人材センターの将来像
高齢者は、どちらかというと、定年後の新しい目標をそれまでの会社などでの生活とは別の新しい形態の仕事の中に見つけると言うことが考えられます。
また、それを行政や企業に頼りすぎずに、仲間たちとの協力によって創り上げることを欲する傾向もあるようです。
これは、自らの能力や知識を生かしつつ、公共性や社会性にやや重点を移し、これにより生きがいを求めると言うことを意味していると考えらます。
そうすると、一定の収入を得ながらも、その収入のみが労働の動機ではなく、社会や仲間との触れ合い、仲間と一緒に何かをやり遂げるという達成感に重きが置かれる傾向が強くなります。
いわば、自己実現型就労が高齢者の労働の大きなポイントと言えるでしょう。
そこで、シルバー人材センターの役割がますます重要になっていくのです。
ところで、先に指摘のとおり(社)相模原市シルバー人材センターは、昨今の不況の中で順調に会員数や契約高を伸ばしています。一方で、後に指摘しますが相模原公共職業安定所管内の高年齢者の有効求人倍率は極めて低い状況です。
そうすると、(社)相模原市シルバー人材センターに高年齢者を含む高齢者への就業機会斡旋の役割を負担させるという考え方が生まれてきます。これは、ある意味必然的な考え方ではあるものの、果たしてそれが高齢者にとって良いことなのかは疑問無しとしません。
仮に、(社)相模原市シルバー人材センターが高年齢者を含む高齢者の就業機会斡旋の役割に対しても力を注ぐことになった場合、生きがいなどを目的とした福祉的視点の就業機会提供と経済的視点の就業機会提供のバランスは、現状を鑑みると後者に比重が大きく移るうえに、シルバー人材センターでの労働スタイルがチームでお互いを補いながら行うエンパワーメントの理念による福祉的就業形態を崩すことにもなり、全体としてその機能を喪失することが懸念されます。
また、2000年(社)神奈川県シルバー人材センター連合会の年報によれば、シルバー人材センターの会員入会動機が経済目的の21・7%に対して、健康目的が53・1%であることなどを鑑みても、シルバー人材センターが福祉的な視点を喪失することは、極めて大きな問題があるのです。
そこで、私たちは、シルバー人材センターの役割について、生きがいや健康目的に働く場を求める高齢者に対応する機能に特化させ、所得確保など経済目的に働く場を求める高齢者に対しては、公共職業安定所をはじめとする別個のシステムの効率化によって対応するべきであると考えます。
すなわち、シルバー人材センターの主目的である『概ね60歳以上の現役をリタイアした方々が会員となって、地域の日常生活に密着した臨時・短期的な仕事を行うことにより、追加的な収入を得るとともに、就業を通じた社会参加や生きがいの充実を図ること』にある程度の幅をもたせつつこれに特化するという考え方です。
第4節 地域で生きがいをもって働くには
私たちは、地域社会において、高齢者が生きがいを持っていきいきと働けることが理想であると考えています。そして、高齢者は働くことで社会に参加し、その過程と結果により自己が社会に役立つのだという精神的満足を得て、もって健康の維持・増進をはかるのだということを理解しなくてはなりません。
高齢者が生きがいをもって働くことを推進していくためには、地域社会の理解と雇用機会提供のシステムが円滑且つ効率的に機能することが必要です。
現在では、地域社会において、若干シルバー人材センターの機能などについての理解と認識が不足していると考えられます。せっかくの有効かつ効果的な機関である(社)相模原市シルバー人材センターをよりいっそう理解し、そして、地域社会がノーマライゼーションとエンパワーメントの理念をもって後押ししていくことが必要でしょう。
第3章 経済的自立に向けた労働
第1節 はじめに
先ず、高齢者が生活するために必要な生活費の原資として、

1) 貯蓄及び利子収入
2) 年金
3) 自営収入
4) 給与収入
5) 公的援助
6) 私的援助
7) その他
が考えられます。
高齢者となるまでに、いわゆる『老後』の生活費を十分蓄えることができれば、大きな問題はありません。また、貯蓄と年金収入とを合算すれば生活するには十分であるならば、これも問題はありません。
いかに日本国民の貯蓄率が高い、特に、高齢者の貯蓄率が高いと言っても、将来も引き続いてそうであるかは、先に指摘したとおり疑問があります。
例えば、年功序列型賃金体系が崩壊したらどうでしょう。子どもにお金がかからなくなる年代に至った時、従来の年功序列型賃金体系であったならば給与と生活費と差額で十分な蓄えが出来たでしょう。しかしながら、職能給賃金体系となったとき、いわゆる『ボード(経営陣)』に入ることが出来なかった社員や十分な業績を継続して残せなかった社員、出向した社員などは、従来のように、年齢に見合った賃金を得ることは難しい状況になるでしょう。
例えば、現在の住宅状況を考えたらどうでしょう。地価の下落があったとしても、不動産の価値は依然として高い水準にあると言え、従来に比して住宅ローンの返済の終了は、ほぼ定年退職時期であると言っても過言ではありません。定年を迎えて住宅ローンは完済したとしても、いわゆる『老後』に十分な貯蓄が併せて確保出来ているでしょうか。
例えば、年金制度の状況を考えたらどうでしょう。制度維持に向けた支給年齢の引き上げや支給額の実質的低下など、いわゆる『老後』の生活に十分といえるでしょうか。
例えば、経済の状況を考えたらどうでしょう。低金利、私的保険や各種共済の経営難、福祉の自己負担、医療の自己負担率増加、失業率の増加、企業の倒産やリストラ、国家や地方公共団体の財政難による増税など、将来への明るい見通しができるでしょうか。
これらを考え併せると、貯蓄も、年金も、公的援助も、私的援助も、直感的に考えても大して当てにしてはいけないという結論になります。
そして、いわゆる『老後』の安心は、自らの労働により得る収入に頼ることが、大きく重要性を増してくるのです。
幸いにして、一面、高齢化が進む日本ですが、一方で、少子化が進み、高齢者労働力は貴重な存在となっていきます。
自分の貴重な労働力を上手に活用すること、これがこれからの高齢者の生活に重要なポイントであると言えるのです。
実際に、勤労意欲の国際比較を見てみると、諸外国に比較して日本の男子高年齢者の職業生活からの引退希望年齢について、他の先進諸国に比較して高い水準であるようですし、「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(1996年)により、現在就業しており、今後も就業継続を希望している高齢者を含む高年齢者の就業継続理由をみると、日本の高年齢者の場合も他の国と同様「収入がほしいから」が首位を占めており、やはり経済的な要請が強く働いていることが窺える訳ですから、高齢者を含む高年齢者労働力を上手に活用することができれば、高齢者の満足と地域社会の満足が両立できる可能性が出てきます。
第2節 高齢者労働力の活用の必要性
高齢者労働力を活用することは、社会全体から言えば少子高齢化により減少する若年労働力の補充の目的、高齢者から言えば生計維持の目的という両面を一度に達成させることができるため、極めて重要な意義を有することになります。
それでは、高齢者労働力活用の必要性の一面である若年労働力の補充の観点について検証してみましょう。
先ず、今後の日本の労働力人口等の見込みについて概観してみましょう。
労働力人口(労働力人口とは、15歳以上で労働の意思と能力を持つものの数)の減少に関しては、労働力人口についての労働省(現・厚生労働省)職業安定局による労働力推計で明らかです。
すなわち、平成10年10月の同推計によれば、日本の労働力人口は、1997年(平成9年)は6787万人でしたが、2005年(平成17年)に6850万人とピークに達し、その後は減少に転じ、2015年(平成27年)には6570万人程度になる推計です。
また、年齢別の構成では、少子高齢化の影響で、15歳から29歳の若年労働者の割合が1997年(平成9年)の24・1%から2015年(平成27年)の17・0%と大幅な減少推計となり、一方で、65歳以上の高齢者労働力人口の割合が増加する推計となっています。
このように、労働市場における若年労働者は大幅に減少する推計で、一方高齢者労働力は増加する推計となっていることを考えると、社会から見れば、どうしても高齢者労働力を活用する必要がある訳です。
もっとも、若年労働力が減少する分、これに見合った生産性向上のための技術革新や設備投資を行うことでこれをカバーすると言う考えもあり得る訳ですが、大企業ならともかく、日本の地域経済社会を担う中小零細企業においては、昨今の経済情勢のなかでは困難です。そうであるならば、私たち地域経済社会においては、今後見込まれる若年労働者の急速な減少と高齢労働者の急増を正面から捉え、これに対応するために年齢別の労働力需要構造を抜本的に検討してくことが必要となるでしょう。
次に、高齢者労働力を活用する前提として、高齢者の勤労意欲についても概観してみます。
先ず、日本の労働力率(労働力率=労働力人口÷15歳以上の総人口)は、諸外国に比して高い数値を示しており、高い勤労意欲を有していることが窺えます。
次に、1996年の日本労働研究機構「中高年の働き方と生活設計に関する調査」によれば、現在の中高年齢層(40〜59歳)が60歳以降の生活について、どのように考えているかの点で、60歳台前半(60〜64歳)については、「仕事をせずに年金・貯蓄などで暮らす」と考えている人は、わずか8・0%に過ぎず、ほとんどの人が何らかの形で働き続けることを希望しています。これは、実際の60歳台前半層の就業率(70・0%:労働省「高年齢者就業実態調査」(1996年))を大きく上回っています。また、60歳台後半(65〜69歳)についても、依然として約7割の者が働くことを希望しています。日本の高齢者を含む高年齢者の高い就業意欲が窺えます。
このように、日本は、総人口の減少傾向及び高齢者化の急激な進行による労働力人口の高齢化が顕著となり、若年労働力不足から高年齢者を含む高齢者労働力の活用が必要になります。高年齢者を含む高齢者を重要且つ貴重な労働力と位置づけ、これを積極的に活用することが必須であり、将来に向かって、高齢者の経済社会参加の必要性がますます高まっていくことは、疑う余地がないと言えるのです。
第3節 高齢者労働力の品質
第1 高齢者労働力のイメージ
先ず、労働省(現・厚生労働省)2000年版労働白書をもとに、この点を概観してみます。
1999年の「雇用管理調査」によると、労働者につき一律定年制で、勤務延長制度、再雇用制度がなく、且つ設定予定もない企業が掲げる高年齢者雇用への阻害要因として、次の問題が指摘されています。

1)作業能率の低下の問題
2)賃金体系、退職金制度の問題
3)処遇、ポスト不足等人事管理面での問題
会社の規模別でみると、「作業能率低下」を挙げるのは小規模な企業で高く、「賃金や処遇の問題」を挙げるのは大企業で多いようです。
事実、私たちが2001年に実施した相模原市内の企業に対する高齢者雇用に関する実態調査によっても同様の結果が出ています(詳細は末尾)。

●高年齢労働者の問題点
1)体力・気力の衰え、病気が心配 28% 59社
2)生産性に見合わない賃金の高さ 25% 54社
3)人材の活性化が出来ない 16% 34社
4)適当な仕事がない(ポスト不足) 13% 27社
5)事故等が不安である 13% 27社
6)円滑な業務遂行に支障がある 4% 9社
7)その他 1% 3社 (有効回答数213社)
やはり、高齢者の運動能力や思考能力の年齢的衰えが、作業能率の低下を招き、労働力としての価値が低下していると言うイメージがあるようであり、それが高齢者を含む高年齢者労働力活用を阻害しているようです。
では、このイメージが正しいか否かを次に検討してみます。
第2 高齢者労働力の実際
先に指摘しましたとおり、高齢者は、一般的に、運動能力や思考能力が低下し、労働における作業能力や処理能力が劣り、若年労働力に比して労働力としての価値を見いだしにくいと考えられています。
しかし、実際の高齢者労働力は、本当に若年労働力に比して価値が劣るのでしょうか。この点を概観してみましょう(参考・2000年版労働白書)。
◎健康状態
1997年の労働省「労働者健康状況調査」によれば、現在の健康状態について健康であるとする男性労働者の割合は、60歳以上で85・5%となっており、50歳台後半層の67・3%よりも健康であるとする者の割合が高くなっています。
また、文部省「体力・運動能力調査」により体力年齢と暦年齢との関係をみると、50〜54歳、55〜59歳の双方の7割以上の者が暦年齢より体力年齢の方が若くなっています。また、過去と比較してみても、暦年齢より体力年齢の方が若い者の割合は上昇傾向にあり、過去の同年齢の世代と比較して体力が向上してきているものと考えられます。
更に「労働者健康状況調査」により、普段の仕事での身体的疲労状況を見ると、労働時間等労働密度の違いがあるものの、60歳以上の男性労働者において、疲れると答えた割合が48・4%と最も低くなっています。疲労の回復状況についても、60歳以上の57・2%が一晩寝れば疲労が回復すると回答しており、むしろ疲労を持ち込むことがある割合が最も高いのは30〜39歳の62・2%となっています。
◎職務能力
年齢と職業能力の関係については、「1997年版労働経済の分析」において、ホワイトカラー職業は相対的に加齢による能力の低下が小さいと考えられること、ブルーカラー職業は加齢によって能力が低下しやすいが、何らかの配慮を行うことにより働ける年齢は高くなることなどを指摘しています。

1999年の日本労働研究機構「職場における高年齢者の活用等に関する調査」における統計
● 職務経験や勤続によって上昇すると考えられる能力
1) 専門的知識の蓄積
2) 技術・技能の熟練
3) 指導・育成能力
4) 職場管理能力
5) 不測の事態への対応
6) 接客・対応能力
● 年齢とともに能力は下がる又は年齢に伴い能力も上がるが、ある年齢以降は低下すると考え
られる能力
1) 筋力・体力・視聴覚能力
2) 集中力
3) ねばり強さ
● 年齢には関係ない能力
1) 勤勉性
2) 積極性
これら経験で蓄積される能力は目に見えない財産と言えます。この財産は、労働者の個人財産であるのですが、労働を通じてでないと活用できないものです。ゆえに、この財産が省みられず、不当な評価を受けたうえ、埋もれてしまうことが考えられるのです。
高齢者は労働力としての価値は低いという、いわば間違ったイメージがこの財産の活用を阻害してしまうのです。
例えば、生産と品質に関して、次の数値を示してみます。

品質99%の労働者が5人いた場合、総合的な品質は95%
品質95%の労働者が5人いた場合、総合的な品質は73%
品質90%の労働者が5人